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短歌の目6月の自作短歌ふりかえり

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短歌の目6月の自作短歌ふりかえりをやってみます。
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6月の歌の背景

6月は時間がゆっくりとれたのと、東京行きが終わって一山越えた達成感もあって、とても満ち足りた気持ちで詠めました。
想定人格はちょっとのんびりしてて、初恋もまだ知らないような中学〜高校男子の目線でございました。
機をてらったものやひねったものがないので、読んでくださった方には地味に感じられるかもしれません。でも自分としては人格を設定しながらも今までのなかでいちばんじぶんの核と近い感覚で、素直に詠めて気持ちがよかったです。

各歌振り返り

1.青

HeまたはSheにもならぬ我がためノート吹きゆく午後、青あらし

5,6月の季語を調べたら「青嵐」という単語を見つけました。

初夏青葉のころを吹き抜けるやや強い風。◆「青嵐(せいらん)」の訓読。
青嵐の意味 - 古文辞書 - Weblio古語辞典

だそうです。午後のけだるい英語の授業、「ぼく」に、窓をぬけて青葉の香りをつれた風がふきこむ、という情景です。
恋や愛を知らぬ学生のうちはいまだ男や女としての分化がすすんでおらず、自己の定義があいまいです。
そんな青さ、若さが「やや強めの風」を指す「青あらし」とリンクするかな、と。

2.梅

鰯梅煮ことに酸つぱし夕餉にはかなしいことを探してみたり

晩ごはんのおかずに鰯の梅煮が出てきたんだけれど、なぜか今日はやけに酸っぱく感じる。
お母さんの味つけがそうなのか、それともぼく何か今日かなしいことでもあったっけ、と箸をもちながらぼんやり思い返す歌です。
この「ぼく」、ちょっと自分の感情にニブチンなんですね。
ほんのわずか、ちくっとしたことで、気づかないうちにごはんの味が違って感じることありませんか。

下の句がちょっと言葉足らずでわかりにくかったですね。


3.傘 

朱、白、碧、あふるる傘の氾濫が ( うた )う「世界はこんなにも豊か」

傘→雨の日、というと薄曇りでどんよりしたイメージになりがちですが、たぶんこの「ぼく」だったら違うところを見てるだろうな、と思って詠んだ歌です。色を表す漢字をぱんぱんぱんと持ってきてカラフルさを出したかったのです。
あと最近農家さんの友人が増えまして、「 穀雨( こくう )」、農業にとっては「雨は秋の豊かな実りのための天の恵み」、という考えに触れたので、その影響が出てます。

4.曲がり角 

曲がり角のコンクリの隅のかたつむり未だいることを見つけて帰る

この「ぼく」、まだ恋も知らないもんでかたつむり見つけて喜んだりちょっと子どもっぽいです。
朝の通学路で見つけた曲がり角のかたつむり、帰りにも確認したらちゃんといたので安堵したんですね。
「未だ」は素直に「まだ」にしとけば良かったのと、「安堵」が表出できてないところが力不足です。

5.しそ

雨だれが土の香とつ、と叩いては裏庭の葉、しそだと伝う

「ぼく」、(というか私)の住んでいるところは田舎なのでけっこうな面積の裏庭があります。
昔住んでいたばあちゃんが畑をやっていた庭です。
雨で葉のにおいが強くなり、「あああの軒下の赤紫の葉っぱってしそか」、と初めて気づいたり。
情景をくっきり思い浮かべるには説明不足だったかな。

6.紫陽花

紫陽花が土の pH ペーハー映すよにきみのこころをゆつくりと知る

今回の10首のなかで次の7と並んで好きな歌です。
紫陽花は土のpHがアルカリ性だったら赤紫、酸性だったら青色になるんですってね。

紫陽花がそのつぼみを開くまで、紫陽花を育てる土の質はどんなものなのか、私たちにはわかりません。
「そんなゆっくりさで、他の人のこころを知っていけたらいいな」という「ぼく」の願いであり、「短歌を通してそんな風に人を知ることができたら」、という私の原点でもあります。

最初は「紫陽花が土の pH ペーハー映すよに知りたいきみをゆつくりとでいい」でした。微妙に意味が違ってくる。もう少しなんとかできそう。


7.つばめ

つばめ低く夕橙をきりとつてサイドスローは見えなくなるまで

上の6と並んで好きな歌です。
つばめが低く飛ぶということは明日は雨なので、少し湿りけのある、そんなに鮮やかではない夕焼け空、薄闇になる手前の橙色です。
「ぼく」が学校から帰る途中よこぎるグラウンドの上をつばめが低空飛行し、そのさらにむこうでは野球部が、球が見えなくなるまで練習をしている。
id:drkarigariさんのおっしゃるとおり、つばめの軌跡とサイドスローのカーブを重ねあわせました。
野球そんなに詳しくないので、中学男子がサイドスローを投げることの現実性はつっこまないでください....。

8.袖

衣替えひつぱり出した半袖にもう戻れないきゆうくつさ知る

6月といえば「衣替え」、ということでつくった歌です。去年買った開襟の白シャツを引っ張りだしてみたところ、わりと小柄なほうとはいえ成長期の「ぼく」にはすでに小さくなっていた。
自分でも知らぬ間に大人になっていくおどろきと、もう子どもではなくなっていく寂しさの両方とを感じるせつない一瞬だと思います。

9. 筍

筍がとれれば筍、 ( わらび )なら蕨ばかりを食べて育つた

これは「ぼく」というよりも自分として詠んだ感覚が強いです。
なんのひねりもない歌です。田舎では山菜シーズンになると本当に筍ならほうぼうから筍ばかりが集まり、蕨やゼンマイならそればっかりが食卓に並ぶ、という生活です。昔は「飽きたよーハンバーグとかもっと毎日別なの食べたいよー」とか思ってましたが、今になると毎日山菜食べて酒飲んでこと足ります。

10.たらちね

たらちねの母が揚げたる天麩羅はすこやかなりし 楤芽 たらのめを摘む

これはどう歌えばいいか、すこし迷いました。ちょいちょい書いてますが私は母との関係がほんのすこし特殊で、彼女から「たらちねの」の枕詞が表す母性のようなものを受けた覚えがほとんどありません。
ただ、ここまで「ぼく」として満ち足りた気持ちで詠んできたので、最後で暗くしたくない。かといって「ぼくと優しいお母さん」、みたいな事実と違うフィクションを詠みたくもなかった。

どうにか「ぼく」と自分とで共通する「たらちね感」を模索した結果、「母親のつくる天麩羅だけは美味かった!」という着地点を見つけることができました。救われた。


「つ」などの促音を大文字で表記した理由

単なる思いつきですけど、読み手の文字視認のスピードを落としたい、ゆっくり読ませたいという意識からです。
それが成功しているかどうかはわからない。どうでしょうか。

短歌の目お題募集しています

7月のお題も募集しています。やっぱりたくさんの方からお題を出していただいたほうが、より広がりのある10首になっておもしろいですね。
tankanome.hateblo.jp

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