近況:どうかいってしまわないでよ
C'est 盆。
盆なので遠くの母方の祖母のところへひさしぶりに挨拶にいった。
祖母は若かりし頃からスクーターで市民市場に鯛の尾頭付を買いに行くような人で、83歳で免許とキーを周りに取られるまでぶっぱなしていたその気概は戦争を生き抜いたその世代相応のものであった。いや相応よりもうちょっとあった。
その祖母であるが、顔を見てギクリとした。
彼女は虚ろな目をして枯れ木のようにやせ細ったその身体をソファーに横たわらせていた。まあ今年で御年95歳になるのである程度覚悟はしていたのだけど、聞けば今年の5月に台所で骨折して入院、そのままほぼ寝たきり状態になってしまったのだという。
父方曽祖父母をはじめとして6人ほどをもう先に送り出しているので、もうそろそろ心の準備はできているつもりだった。忘れられるのも定石だ。
それでも顔を見て即座に「あ、もう長くない」と死期を悟るのは辛い。
庭にある大きな栗の木の枝にかけたブランコで私の背中を押してくれた手が、餃子の包み方を教えてくれたその指が、こんなにも小枝のようにやせ細って、「あなたはだれ?」と私を指さすのは辛い。私はセロハン紙のようにぺらぺらに薄くなった彼女の肩をつかんで「孫だよ」とこたえた。
おととしあたりも同じ泣きごとを書いた気がする。
私は私を構成する人達が櫛の歯の抜け落ちるようにこの世からいなくなっていくのが我慢できない。
みんなどうやって乗り越えているんだろう。
こんなにも枯れ木になった祖母の肩どうかいってしまわないでよ