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横山秀夫『64』感想

えっえっこれ後半どうなんの、まさかの「1Q84」的ぶん投げラストか!?
と思ったけどそんなことはなかった。
きっちり伏線回収、さすが。
おおおおおおもしろかったです。
ちょいネタバレ気味になってるかも。


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ざくっとあらすじ

今から約20年前、昭和64年。昭和最後の1週間にD県で起きた「翔子ちゃん誘拐殺人事件」。
広報部にいわれなき人事異動をされた元刑事部・三上。
疾走した娘の捜索という弱みをキャリア組に握られ、20年前の誘拐事件の被害者翔子の父親・雨宮に、事件時効前の警察庁長官訪問の約束をとりつける。
そこに複雑に絡み合う報道対警察権力、中央対地方、過去の「64」事件の秘密を握る「幸田メモ」ーー。
広報部と報道機関、刑事部の仲も最悪の状態に陥るなか、「翔子ちゃん事件」をなぞるように模した少女誘拐事件が起こる。

個人的な感想

緻密な警察内部そして人物の描写

警察ものといえば花の刑事ものかとおもいきや、主人公の三上はその刑事部からなかば「左遷」でまわされた広報部所属。
マイナーなところではあるけれども、だからこそ私たち読者に近い新聞社はじめマスコミとの匿名報道をめぐるやりとりや、「コウモリ」と揶揄されつつも間に入るものの苦渋みたいなのがリアルで生生しかった。
やっぱ刑事部>広報部みたいな、部ごとのヒエラルキーはあるんだな。

伏線出しまくってて本当に回収できるのか不安

三上の娘の醜形恐怖による家出とその捜索、無言電話、翔子ちゃん事件、D県警内部のトップシークレットを握る「幸田メモ」、「64」事件以降引き籠もりになった日吉、不穏な動きを見せる二渡…
これでもかってくらい伏線が登場して途中大丈夫なの?これ全部回収するのどうやって?って不安になった。

はりめぐらされた伏線の糸が巧妙に織りなす壮大なタペストリ

ラスト、64こと「翔子ちゃん誘拐殺人事件」を模した誘拐がふたたび起きてから、並行して点在していた伏線が動き出し集約して、壮大な物語の全貌をパタパタと織りなしてゆく。
その様は時限装置付きの精巧な機織り機のよう。
お見事!の一言。鳥肌たたずにおられまい。


とくに、無言電話の伏線。
この20年経っても、いや20年間たったひとりで向き合いくりかえしていたからこそ蟲毒のように濃縮されていった、人間の執念というものをよく表している。
私ももし同じ立場であったら、同じように全人生を賭けるかもしれない。

http://www.flickr.com/photos/28331423@N07/4243486398
photo by MoShotz

ラスト追跡車のなかでの疾走感と「20分」のもどかしさよ

ラスト、誘拐された娘のため、犯人に携帯で指示をされながら必死で車を走らせる男・目崎。
それを追う追跡車両への同乗を許された三上。
「20分のタイムラグを設ける」という条件付きで報道への情報提供を許可されたのだけど、これが手に汗握るの、もどかしいのなんの。


横山秀夫の小説が大好きで、といいつつこのほかに「顔」「第三の時効」「半落ち」「陰の季節」くらいしか読んでないんだけども。
この人の書く物語ってこんなにハードボイルドで、こんなに緊迫感をリアルに感じるものだったっけかと思った。いい意味で。



あえていえば;

・登場人物多すぎ
登場人物(しかも男の苗字だけ)が多くてしかもチョイ役、回想の中にしか出ないみたいな上司も多いので記憶しておくの大変だった。
最後に出た前島って誰だっけ...
一気読み推奨。



・二渡の役割がいまいちピンとこなかった
三上の高校のときの剣道部の同期であり、三上を広報部に事実上「左遷」させた人事部・二渡。
彼も三上と並行して「幸田メモ」をめぐって動き回るのだけど、途中少し読み疲れから間が空いてしまい、ラストになっても二渡の役割がいまいちピンとこなかった。
もったいないことをした。
一気読み推奨!


・時事的社会問題盛り込みすぎな気が
三上の娘・あゆみの父親憎悪と醜形恐怖という心の病、そして「64」翔子ちゃん事件での自己の失敗を責めて引き籠もりになってしまった男・日吉。
どちらも違ったかたちで余韻をもたせて回収しきることはしていないのがリアルなんだろうけど、ちょいとばかり引っかかる感じ。
三上の人物像に深みを与えていた伏線でした。


読書できる時間が床についてからしかないため、iPhoneKindleアプリで読み進めていたのだけどこれが大間違いだった。
眼がぶっ潰れるかと思った。
iPhone Kindleはマンガか短編用ですね。あと電子書籍リーダーほしいな。



関連で、HONZ麻木久仁子女史がレビューしていたこの本も今なら想像しやすく見れるんじゃないか、と読みたい気持ちです。


真実 新聞が警察に跪いた日 (角川文庫)

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