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「水を縫う」丹念に織りなされる物語

水を縫う (集英社文芸単行本)

水を縫う (集英社文芸単行本)

5/8読了。すごくよかった。
物語が始まってすぐスーッと染みこむように入ってくる文章。
「いとおしい、いつまでもこの物語の中にいたい」と思わせてもらえる作品でした。


「男なのに」刺繍が好きな高校1年の清澄、「女なのに」かわいいものが苦手な姉の水青(みお)をはじめとして、この物語の登場人物はだれもが「男なのに」「母なのに」「父なのに」といった世間一般の「普通」になじめない。

「こうやって刺繍するのが好きで、ゲームとかほんまは全然興味なくて、自分の席に戻りたかった。ごめん」

そう友人の宮多に打ち明けてからの清澄がうつくしかった。
姉のウェディングドレスを縫うと決めたこと、父・全のもとへ訪ねること、母さつ子の葛藤を受けとめること。
高校1年という青さ、まっすぐさと、「好きなものに向き合う」と決めたあとの芯の強さ。

そんな清澄の物語を皮切りに、登場人物ひとりひとりが自分の外の、なかの、「こうあるべき」とむきあい、「こうありたい」へと一歩踏み出してゆく。
ラスト、

でも誰が来たとしても、ドアを開けるのは僕だ。

が明るく胸に響いた。



水青のトラウマのもととなる過去はわりとヘビーだなと思うんだけど、物語全体を重苦しく、ステレオタイプに感じさせないのは寺地さんの軽妙な筆力のおかげ。
この物語のなかではかなりパワフルな母さん、「さつ子」とその元夫でだめんずを絵に描いたような「全ちゃん」の結婚生活のエピソードのところ、あまりにダメすぎる全ちゃんをさつ子が関西弁でドヤしてて声をあげて笑ってしまった。

描写や比喩表現がほんとうにうつくしく、キヨが水青に塗ったドレスのようにやさしく、清潔で肌触りがよい印象だった。
「○○な物語」と浅く定義づけて、わかったふりはしたくない。
何度も読み返して味わいたい一冊となりました。

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