晴れ。知人と逢う。
共通友人である建設会社の社長S氏が、先だってから脳梗塞で入院しているらしい。
S氏は酒癖が悪く、スナックで泥酔するたび「この店は高い」「女がブスだ」とクレームをつけ何度か警察のご厄介になる、素面になると謝りにくるという面倒くさい男だ。私も以前えらい目にあった。でも経営する建設会社は規模としてはかなり大きめらしい。あの社長で?
「あの社長で。でも経営の手腕というか、”いかに相手を完膚なきまでに叩き潰してのし上がるか”を社員にも徹底させてるのは大したものだよな」そう知人はあきれたように笑う。
「知らなかったんだ」知人は言う。
「倒れたのが2ヶ月近くも前の話なのに、知らされなかったんだ。噂をきいてすぐにあいつのヨメに電話をかけたら『そんな大したものじゃない、ただのインフルエンザだ』って。Sが倒れたことを聞きつけたらほくそ笑む同業がたくさんいるだろう、きっと『経営にかかわるから誰にも本当のことをしゃべるな』ってSから口止めされたんだろう、それはわかるよ」知人はたばこに火を点ける。
「でもひどいよな、俺あいつが倒れたっていう1週間前にいっしょにラーメン食いに行ったんだぜ」そう言って煙を吐きだす。
どちらの気持ちもわかる。S氏も知人も寂しがりなのだ。寂しがりやで強がり。
ようやく知人が見舞いに行くとS氏は低い声をかろうじて出して、「保険金おりたからマジェスタ買うかな」と此の期に及んでなお金の勘定をしていたそうだ。どうだ、リハビリでこれだけあがるようになったぞ、と車椅子に乗ったまま左脚の裏を気持ち程度床から浮かせて笑っていたという。