治済こええわ!ソシオパス!-よしながふみ「大奥」11巻感想
抹茶です。大奥中毒です。
読了しましたー。
感想はタイトルの通り「治済こええええええわ!!!!」
帯にも「怪物、徳川治済。」とあります。今巻はその一言につきますな。
以下内容の引用・言及を含みます。
・「ソシオパス」治済の本性
カリスマであった8代将軍吉宗の孫・定信(さだのぶ)と治済(はるさだ)。
前巻から治済の裏の顔はちょこちょこと出てたんですが、今巻でその全貌が明らかになります。
息子・家斉(いえなり)を傀儡として実質の執政をすすめるわ、
他の男が生き残って我が子家斉の地位を脅かさないように赤面疱瘡にかかわった蘭学医をみんな処刑・追放しちゃうわ、
嫁・側室の子(自分にとっては孫)が気に入らないからつって毒入りカステラ送って死なせちゃうわ、
さらには幼少の頃から良心の呵責もなく嘘をつき実姉を謀略・殺害、実母にまで毒を盛っていた過去がわかります。
死の床で苦しむ実母にその理由を問われ、
「退屈だったからよ」
と吐き捨てる治済。
サイコパス?ソシオパス?私ちょっとこの詳細な定義がわからないんですがまさにそれ。
反社会性パーソナリティ障害 - Wikipedia
前巻の人痘摂取にいのちをかけた登場人物たち、青沼、平賀源内、その意思を引きつぐ黒木や、治済の息子の家斉が聖人のように清いひとたちばかりなだけに、この治済の自己中心さ非道っぷりが鮮やかに浮き出てます。
そうだよなあ江戸時代にもこういう人種いただろうなあ。
よしなが先生の精緻な表現の仕方がさらに輪をかけてホントこええええよ。
・「男」を「女」に置き換えてみえてくるもの
息子でありお人好しのおぼっちゃんの11大将軍家斉に「国中の男に赤面疱瘡の予防接種を受けさせましょう!」と言われた治済の返しのセリフがこれ。
「男が」
「男がそういう政にかかわる事をちまちまこの母に意見せずとも良いと何度申したらわかるのじゃ!」
「そもそも男など女がいなければこの世に生まれ出でる事もできないではないか!」
「生まれたら生まれたで働くのも成人して子を産むのも全てを女に押しつけて己はただ毎日女にかしずかれて子作りをするだけ!」
…どっかできいたことある文言じゃないですか?
いままで社会の根底にあった男尊女卑の性的差別が、「男」と「女」の立場を逆転してもおこるいう痛烈な皮肉。
このときの治済のアップ、黒目から光が消えてて本当にゾクっと背筋が凍ります。
ここらへんすらっと流し読みできる人は少ないんじゃないかなー。
あともっというと治済みたいなソシオパス、権力欲支配欲が異常に強く、かつ、その実現を果たせる能力の高い人間というのは男女の性別関係なく存在するもので、それが表出されるか否かは社会的立場の機会に恵まれてるかどうかなんだなってのも感じました。
男女の性別を逆転することで浮き彫りになってくる、世の中の不合理なことやそれでも変わらないもの、人間の怖さ美しさ醜さ、強さ弱さが文字通りえぐるように描かれている良書ですので男女問わず気になった方はぜひぜひ。
時代考証もものすごくて史実をどう解釈・リプレゼンテーションしてるかも楽しみのひとつです。田沼・定信の政治とかこだくさん家斉の理由とか。
次巻は来年とのことですがそれまでどうやって過ごせばいいんだーー!
ほかの方の読書メーターも頷きながら楽しみました〜
http://book.akahoshitakuya.com/b/4592145453