第11回短編小説の集いのべらっくす感想・後半じゃよ
http://novelcluster.hatenablog.jp/entry/2015/08/27/113924novelcluster.hatenablog.jp
感想の後半です。
aoiさんに続いて「頭のとんじゃったことを全力全開で書く人枠」のニューカマー、といった印象です。私はbuntenkaさんのこの作品好きですね。フォルクハルト・ラッハー説ってなんだよ、Hi-Retz BON Danceってなんだよ、とつっこみ始めると脳みその向こう側から海パンの小島よしおがやってきます。ので考えなーい。
日本国内の終末期医療施設で、マツリバヤシを聴きながら最後の眠りについた者もいる
個人的には祭りが好きなもんでわりとこういうマトリックスの中で死んでいくみたいな終わり方も悪くないと思うんですよね。浮世は夢よ、ただ狂え。
また蛇足ですが、マレーシアで海外最大規模の盆祭りってニュースみてこの作品を思い出しました。
マレーシアで盆踊り 海外最大の3万人参加 NHKニュース
- [デジャヴ]
- [短編小説の集い]
もちろん流れるビートは"Hi-Retz Bon Dance" ですね!
2015/09/06 09:06
最初にびっくりしたのは作者さんの書く力の上達具合でした。
いわきちひろさんは初期の頃からのべらっくすに参加されてたと思うんですけど、初期から大分変わったんじゃないかなあ。毎日1000字以上書く練習とされていたということで、改めて「才能とは継続する努力のことなのだなあ」と思いました。尊敬します。
この物語は続きものの完結編とのことでしたが、ちゃんとこの作品単体でも理解できるように書けてるのも上手です。未奈と隆志の6年後しの恋の成就とのことでしたが、空白のあいだのそれぞれふたりのまっとうな生き方を丁寧に描写してのラストなので納得しやすく、素直に「末永くお幸せになりやがれ!」と思えました。ああこんな恋愛をしたいだけの人生だった。
http://hjsmh.hateblo.jp/entry/2015/08/31/140903hjsmh.hateblo.jp
熱にうなされて見た不思議な夢。もし夢のなかで神社にたどりつけなかったら健太郎はどうなってたのかなー、とか、起きてそこに現実と兄の優しさの象徴であるたこ焼きがある。不穏から一転のラストで読む側も安心、よい読後感でした。
行くにきまってんじゃん。おまえバカか?」
兄はそれだけ言うと、バンっと音を立ててふすまを閉めた。
この兄と健太郎の兄弟やりとりがリアルなのが好ましかったです。あとこの兄の態度、ラストへの伏線みたくもなってるんですよね。上手だなーと思いました。
いつもながらまさりんさんの登場人物のかき分けと役割分担が上手だなあ、と思いました。毎度のことながらシホの行動がアバンギャルド過ぎて吹くレベルだし、今回は、ふつうの読み方をすればケンジのラストの言にまさりんさんのアンサーが仮託されている、という感じでしょうか。ケンジは前回でもこういうこというドライな男だからなあ。
「ボクにも観音様が来るってことでしょうか」シンイチにはケンジの心中が図りかねるのだろう。
ここ上手だなあ、と思いました。「だれかがこの状況から助けてくれると思っている」「解がある」と思っている子ども、を良く表してますね。正直シンイチの他力本願さは、やだな、と思うんですけど、未成年のころにはみんなこう、もちろん私もそうだったんだろう、と振り返ります。
余談ですが「ナムアミダブツ、アミダブツ」の念仏は私の地区でもあって、亡くなった人の家に地区のおばあさんたちが3日くらい通いこの和讃を歌います。全国であるんだなあ。
http://roland29.hatenablog.com/entry/2015/08/31/225657roland29.hatenablog.com
うーん、名前のとおり優羽だけが天使のように優しく救いな物語。エグってきて好きな感じです。
未華が結子になつく優羽を見て唇を歪ませるとこ、祭り神輿の場面、未華が結子にコップビールをかける表現、ひとつひとつが丹念、人物を描写していて巧いなあと思いました。作中で未華はまだ若く、それだけに火のように激しい気性を噴出させてしまうのですが、年齢とおかれている状況とパートナー大輔のクズっぷりからするとわからなくもないんだよねえ。ただ気のせいか、「クズクズクズ」と連呼するところはちょっと違和感というか、「未華」という女性としてここまで激しいか、未華のことばを借りて別の誰かを責めてるのかな、と感じました。
「ねぇ」
「なぁに」
「おかあさん」
「なぁに」
結子は優羽に体ごと向き直った。
「呼んだだけ」
優羽は笑い出した。
ここの表現好きです。
「警察に届けようなんて思うなよ。一般的に考えりゃわかることだが、おまえらがぜんぶ悪いんだからな」
「おまえら」って結子と優羽か。どこまでも「自分は部外者」という体を通そうとする大輔。クズというよりも、何かを仮託されている結子への作者の拒絶、侮蔑だと思いました。自分もこういう書き方するから。タイトルの「for your eyes closed」は、結子が泣き顔を見せないよう、優羽に抱きつかせ数えさせた30秒のこと、かなあ。
盆踊りで彼岸とアクセスしちゃったんですね。意識レベルで他者(死者)とつながることで自分でも気付かないほど奥にあった自己の欠乏、それを埋める旅であることに気づく、という。
(私って何なんだろう)
(どうせ生きていても仕方ない)
(だって私は空っぽだもの)
(こうやって旅をすれば許されると思っていた)
(何に許されるの? 私は悪いことをしたのかな)
(帰りたい、あの頃に帰りたい)
(どこに帰るの? あの頃なんて覚えていないよ)
その前の自他がつながる描写もそうですが引用部分のたたみかけるような内省のセリフが感情の流れ、グルーヴ感を助長しているように感じました。
何でも地域のアピールをするためにわざわざ都会からやってくる若者がいるのだという。ただ立ち寄っただけの早苗にはこの町をよその人がアピールしてあげる理由は全くわからなかったが、その「若い人」が自分と同じ目的でこの町にやってきているとは思えなかった。
これは本筋とちがう話だと思うんですが、冒頭でこのように早苗が「わからない」、「地域振興目的で来る若い人たちと自分は違う」と考えているところで、自己の定義づけを外部に依存する、SNSに自分の見聞きしたものをアップするなど自分をコンテンツ化する、間接的に自己価値をあげようとする、という面で、根っこの部分は同じなんじゃないかなあと思いました。
短歌の目もよろしくお願いします。
毎月1日〜10日までやってます。