52ヘルツのクジラたち
かわいらしい装丁からは想像もつかないほど怒涛の展開だった。胸がいたかった。
以下ネタバレあります。予備知識なしで読んだ方が楽しめる本だと思うので、未読の方は今すぐ本屋さん図書館さんへGO。
母親からの児童虐待(家庭内暴力)、養父からの虐待、子どもへの介護の強制、ネグレクト、恋人からの束縛DV。
嘘でしょ、というくらいに主人公の生い立ちが悲惨すぎて、負の連鎖が止まらない。ことばを失う。
以前関連に携わっていた友だちから聞いた話と照らし合わせれば、これは誇張ではなくリアルな家庭内暴力や幼児虐待の事態なんだろうなあと思う。
ヘビイな内容だけど明るい読後感で終われたのは、主人公キナコを美晴や村中、そしてアンさんという仲間が支えていてくれたから。
クライマックスで村中のおばあさん、さちゑさんのことばが胸に響く。
「ひとというのは最初こそ貰う側やけんど、いずれは与える側にならないかん。いつまでも、貰ってばかりじゃいかんのよ。親になれば、尚のこと。」
52ヘルツの声をあげるクジラは孤独なクジラ。でもきっと、同じ52ヘルツの周波数を出す仲間の声をひろいとることができる。声をあげる者は、声を受け取り、与える者にもなれる。
ほか、心に残った文の引用
その、何にも知らない笑顔に唾を吐き掛けたくなった。あんたの考えなしな言葉のせいで、わたしは死ぬほど辛い目に遭った。魚臭いサンタクロースがどれだけ哀しかったか、あんたにはきっと想像もつかない。そして、思った。もう、このひとのことは信用しちゃいけない。このひとに可哀相な子だと思われたら、わたしはまた苦しまなくてはならない。もう二度と、このひとにも誰にも、憐れまれてはならない。それからわたしは、大人を常に警戒するようになった。
よかれと思って差し出す短絡的な助けが、その先を想像できない浅はかな優しさが、どれだけおろかな自己満足なのか、相手を逆に傷つける刃となるのか、その恐ろしさが自分の小学生時代の記憶とともによみがえってきた。同じ穴の狢にならないように気をつけよう。