近況:猫がいる
さいきん家のちかくを猫が歩いている。
猫は白と黒のぶち模様で、体躯の大きさ手足のか細さからまだ成猫にはなっていないとみえる。
猫なんてここいらではどこを歩いてもあたるのだけどどうしても心に引っかかるのは、その危なっかしい足取りだ。
私の運転する車がすぐそばまで近寄ってきても、すっとんきょうな顔をこちらに向けてまごまごしている。
歩いているところを背中から車に迫られてもぎりぎりまで避ける気配がない。またその避ける動作もにぶい。
野生生物と思えない。
つい先だって、家の近所でじいさんが亡くなった。猫はどうもそのじいさんに外飼いされていたのではないかという話だった。
じいさんは聾で、夕暮れ時になるといつも散歩していた。
短い体躯をえっちらおっちら左右に揺らして海岸線までの上り坂をのぼるのだけれど、聾であるものだから、さきの猫同様に、私が彼の後ろから車で近寄ってもぎりぎりまで気づかない。
あぶないねー、ねー、なんて周りうちで話しているうちに、風邪から肺炎をこじらせ、あっさり逝ってしまった。
猫は夕方から夜になるとそのじいさんのいた上り坂のあたりをまごまご歩いている。
もしかしたらじいさんの姿を探しているのかもしれない、あるいは、いっしょに歩いているのかもしれない。
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