もむ畜生、もまれる畜生
先の停電で風呂釜がこわれたので、スーパー銭湯に行くことにした。車で1時間ほど、ドライブもかねて。
入浴後、さっぱりして休み処につく。
すると、先に風呂からあがっていた家人が白いついたての向こうから出てきた。
なぜかギラギラした笑顔で。
軽快に肩を回し、「おまえも受けてきたらいい」とついたてに親指を向ける。
ついたてにはこう書かれていた。
「みつるマッサージ」
ついたての向こうから、小ぶりなじいさんが出てきた。白い白衣、白いマスク。歳のころ還暦。
「どこだ」
「は」
「どこがいたいんだ」
「あ、肩と腰です」
「俺にかかれば一発で治るよ。だから皆2回目は来ないんだ」
「マジっすか」
すごい自信だ。
開始5分、
「金のない世界になればいい、金があるからころしあって奪いあう、そんなのは人間だけだ、人間はみな畜生だ」
「マジっすか」
脳内でBGMが流れる。モンスターハウスだ!
これがあと25分つづくのか。
「コロナは人間にくだった天罰だ」
「俺はもうダメだ、コロナに負ける」
じいさんはそう喋りながら、ザッシ、ザッシと私の首から肩をおしまくる。
ああみつる、そこは頸動脈だよお…。
「俺にかかれば一発で治る。○○(地域名)のばあさんの、三ヶ月整骨院に通ってもとれなかった膝の痛みを、俺がとったんだ。
明日も来る、といって、そのばあさんはもう来なかった。皆そうだ。
二度とこない。治してしまえば儲からない」
ザッシ、ザッシ。
そのばあさんも皆も、ほんとうに治ったから来なかったのかな、という言葉を飲み込んで、私は目をつぶった。みつるの指に集中することにした。
ザッシ、ザッシと音だけがひびく。
ここにいるのは揉む畜生と揉まれる畜生、二匹の畜生だけなのだ。
「痛いか。痛かったら言って」
「痛いです」
「痛いのは生きてる証拠!」
みつるーーーーー!!!
30分の小宇宙が終わった。
「これそうだったら明日も来て。その腰は、一回では治らない」
「わかりました。明日も来ます」
私はみつるに今年の中で最高の笑顔をつくってお礼をのべた。
腰の調子はすこぶるいい。